

今回は、このような疑問に現役の地方公務員が回答します。
この記事の内容
そもそもAI化によって公務員の仕事はなくなるのか?
「公務員の仕事がAIによって奪われにくい」と言える3つの理由
この記事の執筆者
キャリア5年以上の現役地方公務員
AI化によって公務員の仕事はなくなるのか?

AIによって「なくならない」どころか、公務員の仕事はほとんどAI化しないとすら考えています。
公務員側にAI化する動機がない
公務員の仕事がAI化されないと言える理由を一言でいうと、
公務員側にAI化する動機がないから
です。
公務員の仕事はいずれAIに取って代わられる
AI化よって、近い将来公務員の大規模リストラが起こる
ということを最近よく耳にするようになりましたね。
残念ながら、これらの主張には、
AI化を実施する人は誰か?
という視点が抜け落ちています。
つまり、公務員のAI化をすすめるのは、公務員本人です。
民間企業等でAI化の取組みが進んでいる理由は、AI化を進めている企業自身にコストの削減という動機があるからですよね。
結局、当事者にとってAI化するインセンティブがないため、公務員のAI化は進まないと言えるのです。
たしかに、一部の市役所では窓口業務のAI化を進めているところもあります。
出典:総務省ホームページ
しかし、これはあくまでも職員の負担を減らすためであって、職員をリストラして人件費を削減するというベクトルでは動いていないのです。
行政の現場は常に人手不足です。
AI化によって業務が削減できたら、慢性的な超過残業の解消にもつながるため、素晴らしい取り組みといえます。
技術的には十分可能でも、実用化されるとは限らない
AI化にかぎらず、技術的には十分可能なのに実用化されてこなかったということがよくあります。
これは、公務員だけではなく、民間企業も同じことです。
- リモートワーク
- 電子決裁
今回のコロナウイルス騒動で、これらの技術が実用化されたのは、単に必要性が生じたからであって、別に新しく技術が開発されたわけではありませんよね。

そういう意味でいうと、公務員にはAI化の差し迫った必要性がないと言えるでしょう。
AIよりももっとローテクな技術で効率化できることが山ほどあるのに、いまだにアナログな方法で仕事をしているのが何よりの証拠です。
部下がWordで作成した資料を手書きで修正し、またWordで打ち直させる
EXCELの関数が使えず、電卓で計算した数値を手入力で直接セルに打ち込む
このように、お笑いコントのネタになるような職員はたくさんいます。
結局、当事者にAI化するインセンティブがないから、公務員の仕事は結局ほとんどAl化されることはないでしょう。
AI化によって公務員の仕事がなくならない理由
公務員のAI化が進まないのは、
- AI化できるほど行政の仕事は単純業務ばかりではない
- AIによって効率化するインセンティブがない
- 予算が縮小してしまうためAI化したがらない
という主に3つの理由が考えられます。
AI化できるほど行政の仕事は単純業務ばかりではない
公務員の仕事はテクノロジーによって代替できるから公務員はいらない
といったことをよく耳にします。
しかし、この主張は「お役所はずっと同じことばかりやっている」という硬直的な行政運営を前提にしている点で間違っています。
現実の行政の現場はもっと複雑で、短いスパンでやることがコロコロ変わっているのです。
社会や市場の構造が変わり続けるかぎり、新たな行政ニーズは常に生まれ、行政の仕事はなくなりません。
空き家問題
性的マイノリティー
新型コロナウイルス
など、つい最近では想像もつかなかった行政課題が次から次へと出てきますよね。
行政課題を的確に把握して、個別の事業に落とし込むこと
これはとてもAIには代替できるものではありません。
少なくとも窓口業務などの「THEお役所仕事」というものをしたことがない僕の経験上、公務員の仕事がAIによって奪われるとはとても信じられないです。
もちろん、窓口業務などの定式的業務などは、将来的にはどんどんAI化されていくでしょうし、むしろ、すぐにAI化されるべきです。
というか、
- 公有地の管理
- 窓口業務
などの定例的な業務は、すでに民間委託という形で少しずつ行政の手から離れていってるのが現状です。
少なくとも、AI化できるのは定例的な単純作業にとどまり、公務員の仕事をすべてAIによって奪うことは不可能なのです。
AIによって効率化するインセンティブがない
AIによって、業務を省力化する組織的なインセンティブが公務員にはありません。
このことも公務員の仕事のAI化が、なかなか進まない理由の1つです。
AI化の動機は地方自治体と民間企業とでは全く違います。
自治体 :職員の負担軽減・サービスの効率的提供
民間企業:人件費の削減による利益の最大化
民間企業の場合、人件費の増大によって会社自体がなくなるリスクと常にとなり合わせです。
つまり、民間企業がAIを導入する動機の方がより切実です。
地方自治体だと、たとえ早急にAI化しなくても、民間企業のように組織自体がなくなる可能性は極めて低いのです。
少ない資源で最大の効果をあげようとする民間企業と行動原理が全く違うため、公務員の仕事をAIによって効率化するインセンティブはあまりないと言えるでしょう。
予算が縮小してしまうためAI化したがらない
公務員の仕事は、AI化のインセンティブがないどころか、むしろ、過度に効率化してしまうことで自らの首を絞めかねません。
これは、
一度削られた予算は増えることはない
という予算要求のルールと深く関係しています。
AI化によって執行額が減るとわかってしまえば、次年度から事業予算を減らされるのは目に見えています。
これは、僕が事業部の予算要求を担当していた時、財政課とのやりとりで感じたことです。

新規事業のために、既存の予算枠から増額要求するのは血を吐くほど大変なのです。
何が何でも与えられた予算枠を死守
毎年度多少ボッタクリ気味に予算要求
このように、事業部はいざというときのバッファーを持っておこうとすらします。
AI化によって、自らバカ真面目に歳出抑制に取り組むところなんてありません。
予算枠の縮小を防ぐため、事業部は必死になって「自分たちの事業がAI化できない理屈」を固めるのです。
まとめ
今回は、公務員の仕事がAIによって奪われにくい3つの理由について説明しました。
この記事のまとめ
次の3つの理由から、公務員の仕事は将来的にAI化しにくいと言える。
- AI化できるほど行政の仕事は単純業務ばかりではない
- AIによって効率化するインセンティブがない
- 予算が縮小してしまうためAI化したがらない