出世

「未来の副知事」を間近に見て感じた、県庁で出世する人々に共通する3つの特徴

2020-10-28

県庁職員として出世するのは一体どのような人たちなのでしょうか?

コミュニケーション能力が高い?

事務処理能力が高い?

 

いいえ、ちがいます。

 

じゃあ、上から気に入られるためにゴマをする能力が高い?

 

いいえ、ちがいます。

 

これらはどれも、十分な答えになっていません。事務処理能力やコミュ力なんて、県庁に限らず、あらゆるホワイトカラーの組織で出世していく上で当然に必要とされてくるスキルですよね?

幸いなことに、僕はこれまで

事業課の職員として「名ばかり管理職員」の直下で仕事をする
総務課の職員として部長や次長をはじめとする「優秀な管理職員」の間近で仕事をする

という、2つの両極端な経験に恵まれました。

そして、両者の違いを比較すると、県庁職員として出世する人に共通して見られる特徴は、

  1. リスクマネジメント力の高さ
  2. 調整能力の高さ
  3. メンタルの強さ

の3つに尽きるという考えに至りました。

この記事では、県庁職員として出世するために求められる3つの能力と、これらの能力が、民間企業でもない、県庁という組織の独自性によってもたらされるということについて、僕の考えをお伝えしたいと思います。

リスクマネジメント力が高い

県庁で出世する人の一つ目の特徴として、まず、リスクマネージメント力が異常に高いということです。

僕がこれまで関わってきた「未来の副知事」たちはみな、問題が表面化する前にあらかじめ水際の対策を講じる能力がズバ抜けているのです。

総務課に配属されてから、部長や次長から直接仕事の指示を受けることが多くなったのですが、時として彼らの業務指示が何のためにあるのかわからないことも多々ありました。

そういうとき、僕のような一般人は、「その仕事、今やる意味あるんすか?」とか思ってしまうのです。

しかし、実はこのように緊急性がないように見える仕事も、近い将来に起こるリスクに対してあらかじめ対策をしているという場合が実は多いのです。

実際、リスクが顕在化しかけた時になって初めて「ああ、あの時の業務指示はこのためにあったのだな」と幹部のリスクマネジメント力の高さに驚かされることがよくありました。

彼らは、リスクに対して感覚が非常に研ぎ澄まされているのですね。

ではなぜ、県庁職員として出世するために突出したリスクマネジメント力が求められるのでしょうか?

県庁の仕事のゴールは「現状維持」

なぜ県庁職員として出世するために高いリスクマネジメント力が求められるかと言うと、県庁をはじめとした地方自治体は現状を維持することが仕事だからなのです。

県庁をはじめとする地方自治体は、民間企業と異なり、収益を上げることによって自社の製品やサービスを拡大したり品質を向上できません。

成長による成果を示せない分、どうしても現状維持し続けることがゴールになってしまうのです。

現状維持そのものは悪いことではありません。

もし問題があるとすれば、それは現状維持そのものに問題があるのではなく、適切に資源を配分できていないことなのです。

収益を上げてサービスを拡大・向上できないという性質上、どうしても現状の適切な行政サービスを維持し続けることがゴールになってしまうのですね。

そして、現状維持するためには、問題が表面化することを未然に防ぐことが最重要なのです。

リスクが顕在化で「現状維持」ができなくなるのは「マスコミ」「議会」があるから

僕たちが何よりも恐れているのは、リスクが顕在化して行政サービスが機能不全になってしまうこと、つまり現状維持が出来なくなってしまうことなのです。

現状維持ができなくなってしまう最大の理由は、 マスコミと議会という2大勢力の存在です。

つまり、問題が表面化することによって、「マスコミ・議会の対応」という非生産的業務にリソースを使わざるを得なくなってしまうためなのです。

まずマスコミに叩かれ、次に議会で紛糾するという流れで雪だるま式に問題が拡大していくというのが、よくあるパターンです。

そうなると、司令塔となる幹部職員が不在になるだけではなく、直接行政サービスを担う末端の職員もマスコミや議会への説明資料の作成に追われ、通常の業務に支障が出てきてしまうのです。

これが最も恐れるべき機能不全の実態なのです。

民間企業の中には、リスクマネジメントを担う部署とそうでない部署に別れているかもしれませんが、県庁ではすべて部署がリスクマネジメントを担っていると言っても過言ではありません。

何かマスコミや議会で炎上すると、担当の課の課長がすぐに飛んでいって火消しに走ることができるようになっているのです。

県庁という組織において重要なのは、とにかくリスクマネジメント力を尖らせて、現状を維持すること。

リスクマネジメント能力は出世するために必須のスキルと言えるでしょう。

メンタルが強い・動じない

県庁で出世している人たちに共通する二つ目の特徴として、メンタルが非常に強いということがかけられます。

そもそも地方公務員という仕事は地味

基本的に県庁はじめとする地方公務員の仕事は、どの部署も地味なところばかりで、仕事に対するモチベーションを保ちにくいという特徴があります。

産業振興とかスポーツ振興とかを担当する「花形部署」と言われるところでも、案外やってることはチマチマした内部管理業務ばかりだったりします。

ただただ続けていくだけでも、ある程度の高いメンタル力が求められるのです。

民間企業であれば目に見える仕事の成果をモチベーションにすることができるでしょう。

イケイケドンドンの本社で成果を上げていた人が、沖縄の離島の支所に異動させられて(左遷じゃなく栄転らしいです)暇すぎてうつ病になったという話を、とある企業に勤める知り合いから聞いたことがあります。

県庁の場合、そもそも地味でつまらない部署が多いため、このような形でメンタルをダメにすることはあまりないでしょう。

世間で言われている「地方公務員のやりがい」はおかしい!現役地方公務員が本音で解説

逆に言うと、つまらない仕事を耐え抜いて、モチベーションを落とすことなく続けると言う意味でのメンタルの強さは、すべての職員に求められるのです。

何の意味があるかもわからない仕事に耐え、率先して人の上に立ち続ける幹部職員には、なおさら他の人よりも高いメンタルタフネスが求められるのです。

人前にさらされて怒られたり批判されたりすることが多くなる

それに加えて、出世すればするほど、人目にさらされて謝罪したり批判されたりすることが多くなります。

先ほどのリスクマネジメント能力のところでも少し触れましたが、県庁の失態をこぞってバッシングするマスコミと議会への対応がそれにあたります。

いくらクリーンな行政運営をしたところで、油断はできません。

直接的な県の不手際だけではなく、間接的な県庁批判を含めれば、ネタに尽きないのです。

補助金を交付した団体がじつは反社会的勢力だった

税制優遇をした企業が県内から工場を撤退させた

消費税値上げについて、国に対して要望しなかった

これに対する県の責任はどうなんだ、という具合に。

ちなみに僕は、上に行けば行くほど、こうして人前で批判される機会が多くなることが、地方公務員として出世するデメリットの1つであると感じています。

現役地方公務員の僕が出世したくないと考える6つの理由を教えます

僕は総務課の職員としてマスコミ対応や議会答弁をする幹部職員の姿をよく見てきたのですが、優秀な方々はめったに動じることがありませんでした。

議会でのやり取りは、たいていは事前に答弁調整したシナリオどおり進むのですが、たまに質問者である議員から予定外の追求があります。

不規則発言とか再質問といわれるものですが、このような時も優秀な幹部職員は全く動じることがないのです。もしかしたら心の中では焦っているかもしれませんが、それを表に出すことは全くありません。

マスコミ対応も、問題が表面化してマスコミにたたかれるのは、だいたい自分の失敗ではなく過去の前任者が見過ごしてきたことに対する責任をとって謝罪することがほとんどです。

これらに対して、いかにして動じることなくそつなく対応するか、それによって、県庁という組織を現状維持するか、ということが重要なのです。

調整能力が高い

県庁で出世する人たちに共通する3つ目の特徴は、調整能力がずば抜けて高いということです。

ちなみに、県庁職員として調整能力は、民間企業における調整能力とは少しニュアンスがことなり、予算というフィルターを通して上下や内外の調整をすることであると考えています。

県庁における調整能力とは「既存のパイを上手く切り分ける力」

僕が思うに、県庁職員としての調整能力とは、既存のパイをうまく切り分けること、つまり、内部も外部もみんながそれなりに納得する形で予算事業を形にすることです。

なぜ出世する県庁職員がこの能力に優れているかと言うと、県庁が民間企業と違って

  • 収入が少なく(収入源が税金のみで、自ら稼ぐことができない)
  • 支出が多い(行政サービスは一方向的に拡大していく)

組織だからという理由があると考えています。

自ら稼ぐことのない県庁

まず、県庁をはじめとする地方自治体の活動は利益を生むことがありません。

なぜなら、行政の目的は、利益を上げることではなく、民間企業が参入しないけど社会に必要とされているサービスを提供することという前提があるためなのです。

民間企業が参入する目的は利益の追求ですから、裏を返せば民間企業が参入しない分野に参入することの利益は当然0になります。

理論上、行政サービスのゴールは、税金をもらったら、同じだけ民間企業が参入しない分野に還元するということです。

しかも現実はもっと厳しく、県庁をはじめとしてほとんどの地方自治体は収入よりも支出が大幅に上回っています。

そのため地方債や国の交付金に頼らざるを得ないのですが、結局はこれらは人のお金です。自分で稼いだ金のように堂々と使うことができません。

もちろん、株式会社も増資や融資という資金調達方法もありますが、これは将来的に見込まれる会社の利益でペイできるという建前があるので堂々と使うことができます。

県庁は、民間企業みたいに「利益をあげる」ということはありえません。

このように収入が先細りしていく中で、ますます既存のパイを再配分することに重点が置かれていくのです。

行政サービスは拡大するが縮小しない

さらに、予算額の大幅な増額が見込めない中、行政サービスの種類やボリュームはどんどん増えていきます。

なぜなら、社会が多様化するにつれて行政ニーズも多様化してゆくからです。

え、でも、行政サービスってスクラップ&ビルドだから時代にそぐわないものは無くなって行くんじゃないの?

いいえ、違います。たしかに、行政学の教科書とかに書いてある理想論はスクラップ&ビルドですよね。

しかし、現実はビルド&ビルドなのです。なぜなら、一度でき上がってしまった行政サービスは既得権益化してしまい、簡単になくすことができないためです。

ゴミみたいな地方公営企業や第3セクターに、いまだに県が多額の出資や貸付を続けているのもそのためですね。無くしてしまった方が明らかに県民のためなのはわかっていますよ。

結局、予算は増えないのに、事業ニーズだけは増えていくのです。

予算が少ない中、各部が各部、自分のところの利益ばかりを重視して予算をゴリ押ししてたら、県庁はたちまち機能不全に陥ってしまいます。

出世していく上層部の人たちはこのことをよく知っています。

部(課)としてのメンツを保ちながらも、財政課(総務部)と落とし所について上手に探すこと。

いかにして、財政課から精一杯の答えを引き出し、それをもって部内の幹部や外部の利害関係者を説得するか。

県庁で出世するには、このような微妙なバランス取りの能力が求められるのです。

まとめ

いかがでしょうか?最後にポイントを整理したいと思います。

  1. 現状維持が重要であるが、問題が表面化すると一気に機能不全になりかねない
  2. 仕事が地味でつまらない上に、議会・マスコミ対応がかなりのウエイトを占める
  3. 予算が増えないのに事業ニーズばかりが増えるため、個々の事業が先細りしていく

という状況に県庁が置かれているなか、出世するためには、

  1. リスクマネジメント力の高さ
  2. メンタルの強さ
  3. 予算調整力の高さ

が求められているのです。

世間一般的には、ゆるくてふわふわした職場だと思われている県庁ですが、やはりトップ数パーセントに入るためには、それなりの高い能力が求められていることは間違いないでしょう。

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