

この記事では、現役公務員がこのような疑問にお答えします。
この記事の内容
現状、公務員はどれくらい年功序列なのか?
今後も公務員の年功序列がなくならないと言える理由
この記事の執筆者
キャリア5年以上の現役公務員
今のところ、給料も役職もほぼ年功序列で上がっている
僕自身、別に「年功序列」を擁護しているわけではありません。
ただ、事実として公務員の年功序列はなくなる可能性が非常に低いのです。

公務員になったとたん急に、外資系企業みたいに厳しい成果主義が導入されたら、何のために公務員になったかわかりません。
安心してください。
今回は、公務員の年功序列がなくならない理由について、深堀りして解説したいと思います。
公務員はどれくらい年功序列なのか?
公務員の年功序列がなくならない理由についてか解説する前に、そもそも公務員がどれくらい年功序列なのかについて整理しておきます。
あくまでも、僕の勤め先である県庁の例ですが、
- 昇給(給料があがること)
- 昇格(役職があがること)
のそれぞれについて説明します。
昇給については、ほぼ100%年功序列
まず、昇給についてはほぼ年功序列です。
公務員の給料は、給料表というものによって決められています。
(出典:岡山県庁:行政職給料表)
縦軸は、「号給(ごうきゅう)」または「号俸(ごうほう)」と呼ばれ、勤続年数に合わせて下にスライドしていきます。
横軸は、「級(きゅう)」と呼ばれ、昇格に合わせて右にスライドしていきます。
つまり、昇格、つまり、横軸の移動がなくても、毎年かならず昇給するのです。

もちろん、昇格せずにずっと同じ職位のままだと、昇給幅は小さくなります。
しかし、これだけでは年功序列的ではないとは言いきれません。
なぜなら、通常、級が上がると号俸は下がる、つまり、給料表でいうと右上にスライドするからなのです。
これによって、たとえば、
50代後半の主査(一般職員)と40代中頃の課長補佐(管理職員)の基本給が逆転する
といったことが起こってしまうのです。
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昇給については、ほぼ年功序列といっても差し支えないでしょう。
昇格についても、ほぼ年功序列
昇格についても、ほぼ年功序列です。
なぜ、昇格スピードにおいても年功序列になっているかというと、「在級年数」というものが、各自治体で決められているからなのです。
「在級年数(ざいきゅうねんすう)」とは?
- それぞれの職位に最低何年以上いないと、上の職位に昇格できないとするルール
- どこの自治体も大体、各職位で2,3年の在級年数を設けている
これによって、飛び級でどんどん昇格することは不可能になるのです。
ちなみに、僕が働いている県庁では、
- 40代までは、主事→主任→係長(主査)とほぼエスカレーター式に昇格
- 係長(主査)以降は、昇格スピードに差が出る
といった感じです。
定年退職までには、ほとんどの人が係長(主査)→課長補佐→課長までは昇格しています。

昇格スピードにおいても、ほぼ年功序列といっても差し支えないでしょう。
公務員の年功序列はなぜなくならないのか?
それでは、なぜ公務員の年功序列はなくならないのでしょうか?
これについては、
- 客観的な評価基準がない
- 地方公務員の人件費率はとても低い
- 成果主義によってむしろモチベーションが下がる
- 行政の安定性が揺らぐ
- 内部調整が非常に難しい
という5つの理由があると考えています。
理由①客観的な評価基準が無い
公務員の場合、客観的な評価基準がありません。
このような中、過度な成果主義を導入することで不公平感が生まれてしまうのです。
つまり、
- 部署によって業務の重さがぜんぜん違う
- 業務処理プロセスを評価基準にできない
といった行政組織ならではの事情によって、全職員を客観的に評価することは不可能なのです。
部署によって業務の重みが違う
部署によって業務の重さが違うため、業績評価の重さにも差が出てきてしまいます。
たとえ、ひとつの部署の中で相対評価(ランク付け)がされているとしても、部署をまたぐと評価の重みは変わっててしまうのです。
例えば、
本庁で一番激務の部署(財政課など)
出先で一番ゆるい部署
のそれぞれで、「優秀」の評価をもらった職員がいるとします。
しかし、この2人の職員は、果たして同じくらい「優秀」なのでしょうか?
もちろん、そんなことはありませんよね。
むしろ、業務の重さを考慮すると、出先で「優秀」の評価をもらっている職員の業務処理能力は、財政課で「普通」の評価をもらっている職員よりも低い印象すらあります。

つまり、部署によって業務の重さが違う中、4〜5段階しかない業績評価なんて「血液型占い」みたいに雑なものなのです。
血液型占いでA型の人がすべて全く同じなんてことはありえないですよね。
それと全く同じように、いろんな部署で「優秀」の評価をもらっている人が、全て同じくらいの能力を持っているとは限りません。
部署によって業務内容がさまざまある中、全職員の能力値を定量化することは不可能なのです。
業務処理のスピードを能力指標にすると不公平が生じる
民間企業のような成果指標(売上・利益など)がない公務員でも、業務プロセスそのものを評価対象にすれば成果主義の導入が可能
このようなことをたまに聞きます。
しかし、現役公務員の立場から言わせてもらうと、このような評価方法はハッキリ言って不可能です。
一見、公務員の仕事は個人プレーに見えても、じつは何人もの職員が複雑に関係しています。
デュープロセス(適正手続の原則)の観点から、一つの業務を何人もの職員でチェックする
というタテマエがあるのです。
お役所仕事は遅い
などとよく言われますが、じつは、事務担当者が「たたき台(最初の案)」を作るのにそこまで時間はかかりません。
結局、何に時間がかかっているかというと、
- 他部署・外部機関との調整
- 決裁(主査→課長補佐→課長までのレクチャーなど)
など、自分でコントロールできない要素がほとんどなのです。
こう考えると、事務担当者が最終決裁を受けるまでの業務プロセスの良し悪しは、上司や他部署の担当者によって大きく左右されるといっても過言ではないでしょう。

残念ながら、これも現実的ではありません。
各事務員がいくつも受け持っている業務の全てについて、いつから取り組んでいつ起案したかを管理職員が正確に把握することは不可能だからです。
業務プロセスを基準にした評価なんて、結局は「なんとなく早いな」とか「なんとなく遅いな」といった管理職員の印象にしか過ぎなくなってしまうのです。
しかも、事務の種類・重たさは様々だから、全てを定量化するのは不可能です。
成果主義の前提となる「客観的な評価方法」を確立することが、公務員の場合不可能なのです。
理由②そもそも地方公務員の人件費率はとても低い
一般的な年功序列のデメリットは、意欲的な若者が離職することによって、人件費率が増加することと言われています。
人件費の高い老人ばかりが残るので、当然、人件費率があがるのですね。
この点、地方公共団体だとそもそも人件費率がとても低いので、人件費の増大はあまり問題にはなりません。
(出典:総務省「平成31年版地方財政白書」)
さらに、事務職員の人件費だけをみると、歳出総額のわずか3%に過ぎないのです。
都道府県庁だけをみると、歳出総額の1%ほどしかありませんね。
(出典:総務省「平成31年版地方財政白書」)
民間の「サービス業」の人件費率が、一般的に40〜60%を占めると言われているのと比べて、これは非常に低い数値と言えますね。
年功序列による人件費率の増加は、地方自治体の場合、そこまで経営を圧迫している要因とは言えないのです。
理由③成果主義によってむしろモチベーションが下がる
成果主義の導入によって、職員のモチベーションがあがり、生産性があがる
と言われていますが、公務員にはほとんど当てはまらないでしょう。
それどころかむしろ、成果主義を導入することでモチベーションが下がることすら考えられるのです。
職員のモチベーションはすでに十分担保されている
成果主義によってモチベーションがあがる公務員は、いったいどれだけいるでしょうか?
成果主義が導入されたところで、僕はそこまでモチベーションがあがるとは思いません。
少なくとも、僕にとっての仕事のモチベーションは、「能力に見合った待遇」よりも「身分・昇給の安定性」です。

成果主義で評価されたいと思っている人は、そもそも公務員になんてなりたいとは思わないはずです。
能力に見合った評価システムの中でドンドンと組織の上に登りつめたい、という野心家は少ないはずです。
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国家公務員の総合職ならまだしも、地方公務員ならなおさらです。
そもそも、給料があがること自体は嬉しいですが、役職があがることはデメリットしかありませんし。
- 成果主義の民間企業から転職してきた人たちが長く働いている
- 全体で見ると、公務員の離職率は低い
ということからしても、職員のモチベーションはすでに担保されていると考えて間違いないでしょう。
むしろ成果主義によってモチベーション・生産性が低下する
- 上司の顔色を見ながら仕事する
- 日和見主義
公務員の仕事は、よくこのようにバカにされていますね。
しかし、年功序列をやめることによって、さらにこの傾向が強まると僕は考えています。
なぜ、このようにいえるかというと、最初に説明したように、業績に対する客観的な評価基準がないからです。

このような中、過激な成果主義が導入されることによって、上司の「感情」だけで給料や役職に大幅な差がつくようになります。
不公平感が広がりモチベーションが下がる結果、組織としての生産性が下がりかねません。
というか、すでに、人事評価が上司の印象や感情によって左右されているところがあります。
しかし、それでも暴動が起きないでいるのは、年功序列によって大幅な差が付かないから。
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公務員の場合、身分が安定しているからこそ、上司の顔色を気にしすぎず主体的に仕事ができる側面もあるのです。
たしかに、アフター5のことしか頭にない「能無し」が増えるという、年功序列ならではのデメリットもあるでしょう。
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しかし、上司に議論をいどみながら主体的に仕事している先輩も、中にはいます。
これがもし、主観的な人事評価によって大きく身分が左右されることになればどうでしょうか?
職員が萎縮することによって、右向け右の風潮はより強くなってしまうでしょう。
仕事に対して意欲的な若手職員が離職し、老害ばかりが残る
という傾向が、結果として今よりもさらに強まるかもしれません。
形だけの「成果主義」によって、むしろモチベーションがさがりかねないのです。
理由④行政の安定性が揺らぐ
最初に説明したように、業務プロセスそのものを評価対象にすること自体不可能だと僕は考えています。
しかし、業務プロセスを評価対象にすることの弊害は他にもあります。
担当職員が変わるたびに、運用がばらばらになってしまう
この意味で行政の安定性が揺らいでしまうリスクがあるのです。
決裁を受けやすくするためのテクニック重視になりかねない
万が一、業務プロセスを過度に重視した成果主義を導入した場合、決裁を受けやすくするためのテクニックばかりが磨かれる危険性があります。
行政の仕事は、複数の人間でチェックすることによって安定を担保している面があるのです。
これがもし、決裁の迅速さばかりにフォーカスすれば、チェック機能は弱まります。
つまり、決裁権者(上司)が気にするところをクリアすることばかりに特化した、中身のないものになりかねないのです。
また、
- 後閲
- 代決
などを不当に駆使することで、「よく決裁を差し戻してくる人」を意図的に回避することも可能です。
当然、「後閲」や「代決」はやむを得ないときだけに用いられるものです。
このようなことが横行すると、当然、複数の職員でチェック機能が働かなくなります。
結果、職員が変わるたびに行政サービスの運用がばらばらになってしまう恐れがあるのです。
理由⑤内部調整がとても難しい
「成果主義」を導入するためには、条例改正が必要になります。
条例改正にあたっては、
職員
公務員労組(職員団体)
議会
といった利害関係者との調整が必要となります。

利害関係者との調整が少しでも上手く行かなかった場合、条例改正は実現しません。
利害関係者との合意が最優先なので、結果として、踏み込んだ給与制度改革は不可能になるのです。
たとえ、形上の「成果主義」を実現できたとしても、中身は中途半端なものになってしまうでしょう。
まとめ
今回は、「公務員の年功序列」というテーマを中心に解説しました。
この記事のまとめ
現状として、公務員は昇給・昇格ともに年功序列である。
公務員の年功序列は、次の5つの理由から今後もなくならないと考えられる。
- 客観的な評価基準がない
- 地方公務員の人件費率はとても低い
- 成果主義によってむしろモチベーションが下がる
- 行政の安定性が揺らぐ
- 内部調整が非常に難しい