

この記事では、このような疑問に現役公務員が回答します。
この記事の内容
公務員の身分保障の根拠
現役地方公務員が身分保障の手厚さを実感した出来事
公務員の身分保障が手厚い理由
この記事の執筆者
キャリア5年以上の現役公務員
長期の育児休業を取得したことがある
公務員の身分保障の根拠は?
そもそも、公務員の身分保障が手厚いといわれる根拠は何でしょう?
公務員の手厚い身分保障を実感した僕の体験談をお伝えする前に、身分保障の根拠について地方公務員を例にして簡単に説明します。
身分保障の根拠は地方公務員法第27条2項
地方公務員の身分保障は、地方公務員法第27条2項に定められています。
職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、若しくは免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職されず、又、条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して降給されることがない。
(地方公務員法第27条2項「分限及び懲戒の基準」)
つまり、公務員の場合、職員本人の意に反してクビにしたり、役職を下げたりすることができるのは、法律等で決められた事由に限られるのですね。
分限処分と懲戒処分の違い
公務員の身分剥奪は、「懲戒処分(ちょうかいしょぶん)」と「分限処分(ぶんげんしょぶん)」のどちらかに限られます。
ところで、「懲戒処分」と「分限処分」とは何でしょう?
懲戒処分とは?
法律上の義務違反に対する処分
処分の種類としては、「免職」「停職」「減給」「戒告」がある。
分限処分とは?
法律上の義務違反とは別に、職務の適格性を欠いた職員等に対する処分
処分の種類としては、「免職」「降任」がある。
つまり、懲戒処分が法律や職務上の義務違反に限定されます。
それ対して、分限処分は、「職務の適格性」を理由にわりと柔軟に運用できるのが特徴なのです。
民間企業のリストラに近いのは、「分限処分」による「免職」の方です。
公務員の手厚い身分保障を実感した3つの出来事
さて、前置きが長くなってしまいましたが、いよいよ本題に入りたいと思います。
僕が地方公務員として働いている中、
公務員って、やっぱり守られているなぁ
と思った3つの出来事についてお伝えします。
①懲戒免職をほぼ見たことがない
県庁職員として5年以上働いていますが、ほとんど「懲戒免職」の事例を聞いたことがありません。
残念ながら、毎年多くの地方公務員が懲戒処分の対象になっています。
僕の勤め先である県庁だけでも、年間の懲戒処分の件数は10〜20ほど。多い年で30件に登るときもあります。
しかし、その多くは、「戒告」や「減給」などの軽い処分で済んでいるのです。
「戒告(かいこく)」とは?
- 4つある懲戒処分の中でもっとも軽い処分
- 文書または口頭による注意のこと。つまり、ただ怒られるだけ。
- 将来的なボーナスなどに影響があることもあるが、処分そのものによって直接の不利益を被ることはない
もっとも重い処分である「免職」は、1年に1件あるかないかくらいなのです。

「犯罪者」でもしっかり守られる
中でも特に驚いたのは、
「犯罪」に手を染めた職員が「免職」されない
ということです。
公務員といえどもさすがに罪を犯したらアウトだろう
公務員になる前は漠然とこのように思っていたので、県庁職員になって最初の年に公表された懲戒処分一覧を見て、正直衝撃を受けました。
窃盗
盗撮
横領
児童ポルノ法違反
驚くことに、これらの罪は「停職」で済まされるものがほとんどなのです。
もちろん、程度の重いものは「免職」に至るケースもあります。
しかし、全体でいうとその割合は非常に少ないのです。
民間企業だと、罪を犯せばほぼ間違いなくクビになるのではないでしょうか?
もちろん、公務員の場合も、懲戒処分をキッカケに退職するということもあります。
しかし、そのほとんどは、罪を犯して懲戒処分をくらった職員が、「停職」を解かれる前などに、みずから後ろめたさを感じて退職するというパターンなのです。

つまり、たとえ「犯罪者」であっても、ツラの皮さえ厚くしておけば、手厚い身分保障によってシッカリと守られるのですね。
「停職」「減給」といった処分を受けたところで、せいぜい
- 生涯年収が数百万円くらい減る
- 基本給が1,2万円下がる
くらいのペナルティーで済むのです。
「犯罪者」でもしっかり守ってくれる、恐るべき公務員の身分保障です。
だから大量リストラなんて起こりえない
将来、公務員の大量リストラが起こる
このようなことがよく言われていますが、正直あまりピンときません。
懲戒免職ですらこのありさまなのだから、リストラに相当する分限免職はもっとおよび腰になるはずです。
このように懲戒処分を慎重に運用している中、分限処分(≒リストラ)を機動的に運用すれば、必ず反発が起きるからです。
罪を犯しても、勤務成績が普通であれば懲戒処分の規定に守られる
勤務成績不良という理由だけで、分限処分によって簡単にリストラされる
明らかに不公平じゃないですか?
懲戒免職にしろ分限免職にしろ、合理的な理由がなければ訴えられます。
不公平な取り扱いを訴えられるリスクがある中、自治体が思い切ったリストラに踏み切るわけがありませんよね。
僕には、どうしても公務員の大量リストラが起こるなんて考えられないのです。
②異動する先にメンタルで休職している職員が必ずいる
よく言われているように、地方公務員にはメンタル休職者の数がとても多いです。
メンタル休職者が多いということは、すなわち、それだけ休職しやすい職場だと言うこともできます。
- 休職中の身分・給料が長期間しっかりと保証されている
- メンタルでの休職後も復職しやすい
など、セーフティネットがしっかりしているのです。
絶対的な割合をみると、
追い詰められるまで働き詰めて自殺するといったケースも少ない
と聞いています。
当然、ブラック企業のようにメンタル休職者を不当解雇することもありません。
中には、ある日突然「失踪した」職員もいました。

そう考えると、公務員は安心してメンタル休業できる環境にあるといえるでしょう。
言い方は悪いですが。
メンタル休職に対して寛容
思うに、公務員はわりとメンタルに対して寛容なところがあるのです。
メンタル休職者を多く抱え込んでいるため、彼らをわりと当たり前の存在として仕事をしているところがあるのですね。
一言でいうと、
僕たち公務員はメンタル休職者がいることに慣れている
のです。
少なくとも僕が知っている限り、メンタルになった休職中の職員のことを悪く言う人はいませんでした。
「心の病」というデリケートな問題であることもさることながら、自分もいつ同じ状況になるかもしれないということがあるのですね。
メンタル休職に対して、わりと寛容な雰囲気があるのはたしかです。

もちろん、メンタル休職者が一人でも出ないのがベストということは言うまでもありません。
しかし、現状としてほとんどの地方自治体が多くの休職者を抱えているのは事実です。
公務員が休職から復職しやすいのは、ひとつの理由として、受け入れ先である職場の寛容な雰囲気があるからではないでしょうか?
じつは休職が長ければ長いほど職場へ迷惑がかからない
しかも、じつは休職が長ければ長いほど、職場への迷惑はかかりません。
年度をまたいで1年以上休職していれば、
- 欠員補充
- 所管業務の見直し
などの措置によって、残された職員の負担が薄まるからです。
しかも、かつての当事者であった職員も、人事異動によってほとんどいなくなってしまいます。
当事者が異動することで、「仕事のしわ寄せをくらったことに対する不満感」も時間とともに風化していきます。
じっさい僕も、数年前から休職していた職員を自分と同じグループに迎え入れるということを経験しています。
長い間ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。
復職時に、形の上でこのようなことを口にしていましたが、こちらとしては、もちろん何とも思っていません。
実際にまったく迷惑がかかっていないのですから。
もちろん、職場や業務内容によると思いますので一概にそうとは言えないでしょう。
しかし、県庁のようにある程度規模が大きい自治体だと、長期の休職はさほど迷惑なことでもないのです。
③育児休業からの復職がラクだった
育児休業などからの復職がラクということからも、公務員は身分保障が手厚い職業といえます。

たしかに、制度そのものに関して、公務員が特別に充実しているわけではありません。
企業によっては、国や自治体よりも制度が充実しているところもあるでしょう。
しかし、全般的に公務員が民間と一番大きく違うのは、制度を実際に活用しやすいということです。
もちろん、休業は法律で定められた労働者の権利です。
しかし、その当然の権利を当然のものとして活用できる企業がどれだけあるでしょうか?
休業はおろか、親の死に目ににも会えないようなブラック企業
男が「育休」という言葉を口にしたらぶっ飛ばされる、体育会系企業
これらは少し極端な例かもしれませんが、それにしても
- 復職後のキャリアダウン
- 自分が抜けた後の同僚の負担増
などを心配するあまり、制度を十分に活用できない人は多いのではないでしょうか?
公務員であれば、女性職員が出産を期に退職するということもほとんどありません。
復職後もキャリアダウンすることなく安定的に昇給・昇格するからです。

もちろん、女性職員だけではありません。
僕の知る限り、半年〜1年の育休を取得している男性職員が僕以外にも何人かいます。
形だけではなく、実際に休業制度を活用しやすいことからも、公務員は身分保障がしっかりした職業と言えるでしょう。
なぜ公務員の身分保障は手厚いのか?
公務員の身分保証が手厚い理由は、行政の安定性・継続性を維持するためと言われています。
つまり、政権交代などによって行政のトップが変わった場合、公務員の身分が守られなければ、安定的に公共サービスを提供できないのですね。
ちなみに、アメリカでは政権交代によって公務員のトップも変わります。
これは、民主党と共和党とで政策的な違いが大きい中で政党政治を徹底するため、と言われています。
しかし、日本では、
- 二大政党の政策が似通っている
- 一党(自民党)優位の傾向にある
といった事情があるため、政党政治の原理を過度に優先させる必要はあまりありません。
今後も、公務員が法律によって手厚い身分保障を受けられると考えて間違いないでしょう。
もちろん、手厚い身分保障の結果、「犯罪者」や「無能なクズ」を一定数生み出し、公務員に対する印象が悪くなっている面もあるのはたしかです。
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ただ、
- 政党政治を徹底する必要性が低い
- 職員の入れ替えによって人材育成コストがかさむ
といったことを考えると、身分保障が手厚くすることのメリットの方が大きいのではないでしょうか。
まとめ
今回は、「公務員の身分保障」というテーマについて解説しました。
この記事のまとめ
公務員の免職や降任などは、法律等で決められた事由に限られる。
実際、懲戒免職の事例が少なかったり、休職や休業からの復帰が容易であったりすることからも、身分保障の手厚さがうかがえる。
公務員の身分保証が手厚い理由は、行政の安定性・継続性を維持するため