

この記事では、現役公務員がこのような疑問にお答えします。

結論を先に言うと、将来的な公務員の大量リストラはありえません。
少なくとも、
公務員がリストラされる可能性は、民間企業に比べて非常に低い
この傾向は今後も続くと考えられます。
よっぽどヒドい(仕事中にお昼寝するなど)ケースを除いてですが。
この記事の内容
現時点での公務員のリストラの実態
将来的に公務員の大量リストラが起こりえない理由
この記事の執筆者
キャリア5年以上の現役地方公務員
公務員のリストラの実態
現状では、公務員のリストラはどのようになっているのでしょうか?
ここでは、
そもそも、公務員にリストラという制度はあるのか?
どれくらいの頻度で公務員はリストラされるのか?
ということについて解説します。
公務員にリストラ制度はあるのか?
一般的に、公務員は身分保障が手厚いと言われています。


民間企業のリストラに近い制度として、分限免職というものがあります。
分限免職(ぶんげんめんしょく)とは?
職務の適格性を欠いた職員等に対する処分。
懲戒免職が、法律上の義務違反に限定されるのに対して、分限免職は比較的柔軟に運用できる。
分限免職と懲戒免職の違いについて、こちらの記事でも詳しく解説しています。
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【現役公務員談】公務員の手厚い身分保障を実感した3つの出来事
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公務員は毎年どれくらいリストラされているのか?
では、実際に公務員は毎年どれくらいリストラ(分限免職)されているのでしょうか?
これについては、
割合的に非常に少ないけれど、ないことはない
といった感じです。
(出典:総務省「懲戒処分者数及び分限処分者数について(H30)」)
コロナ下という状況もありますが、民間企業が毎年数十万人という規模でリストラされているのと比べても、非常に少ないと言えるでしょう。
(出典:総務省「労働力調査(R2)」)
割合的にみても、公務員がリストラされる可能性は、民間企業の1/100以下になります。
(出典:総務省「地方公務員数の状況」)
僕の経験上も、分限免職された人を見たことはありません。
実際「早期希望退職」の募集もされてはいるけど、形だけといった感じです。
いわゆる、上司による肩たたきみたいなものはありません。
公務員の大量リストラが起こりえない理由
たしかに、分限免職を機動的に活用すれば「公務員の大量リストラ」は十分に可能です。
しかし、公務員の大量リストラは次の5つの理由から起こりえないと考えられます。
- 慢性的な人手不足
- 「倒産」することがない
- リストラによる地方財政の回復は見込めない
- リストラ対象者の選定が難しい
- 「事業整理」という概念がない
それぞれについて、具体的に説明します。
理由①公務員は慢性的な人材不足
そもそも、公務員の業界は、慢性的な人材不足です。
- 年功序列
- やりがいのない仕事
といった理由から、優秀な若手職員が自発的に離職していくためです。
どこの自治体も
- 採用人数を増やす
- 人物重視の採用システムにする
など、優秀な人材の獲得につとめています。
しかし、「公務」という仕事の性質上、人材流出をくい止めるのはなかなか困難でしょう。
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いくら採用活動に力を入れたところで、まるで「穴の空いたバケツ」なのです。
あとに残されたのは、
- 安定
- 安泰
- 高待遇
といったメリットに必死にしがみつこうとする、無能ばかりなのです。
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そういう人材が多数を占めていると、突発的に行政ニーズが増えたときに対処できなくなります。
公務員のサービス残業が常態化しているのは、このような事情によるのですね。
たしかに、内部事情を知らない人間からしたら、
AIの導入によってムダな職員をリストラし、人件費の削減を図れる
と思うかもしれません。
しかし、内部事情を知っている人間なら、このような発想にはいたらないでしょう。
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たとえ、絞りカスのような無能な人材であっても、上手く人材配置することで、少しでも残された人間の負担軽減を図ろうとするのです。
理由②「倒産」することがない
民間企業が定期的にリストラをする理由は何でしょうか?
それは、生産性が低い社員を切り離すことによって、業績の悪化を防ぐこと。
ひいては、会社を存続させ続けることではないでしょうか。

なぜなら、国や地方公共団体が「倒産」することはほとんどないからです。
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実際、地方自治体が倒産してなくなった、という事例はいまだかつてありません。
あの夕張市ですら、会社でいうところの「民事再生」の道を選んだことにより、存続しています。民間企業に運営権が移ったわけではありませんよね。
なぜ行政の仕事がなくならないのか、つまり、なぜ行政組織が「倒産」することがないかというと、
行政の仕事は、民間企業によって代替することが不可能
だからです。
行政サービスの必要性は、「利益」や「売上」といった目に見える数値をこえた、特殊な価値判断によって成り立っているのです。
行政の仕事は決してなくなることなく、「倒産」の心配もありません。
その点において、民間企業と比べて、リストラの必要性がないのです。
理由③リストラによって地方財政の回復は見込めない
人口減少による税収減によって、近い将来、公務員の人件費を維持できなくなる
このようなことを言っている人がいますが、この考えは誤りです。
なぜなら、
そもそも地方公務員の人件費率は非常に低い
からです。
つまり、逆に言えば、
人件費を削減したところで、ほとんど地方財政の黒字化を見込むことはできない
のです。
総務省の統計によると、地方公務員の人件費率は、歳出総額のおよそ25%前後です。
業種にもよりますが、民間企業のサービス業の人件費率が40〜60%と言われていることを考えると、これはとても低いと言えるでしょう。
(出典:総務省「平成31年版地方財政白書」)
しかも、その多くを占めるのは
教員
警察官
消防士
自衛隊員
など、現場作業に従事する職員の人件費です。
事務職員だけみると、歳出総額のわずか3%以下に過ぎません。
(出典:総務省「平成31年版地方財政白書」)
まさか
- 自警団
- 町火消
- 私塾(文科省に認められるレベル)
などを作るわけにもいかないので、さすがに、警察官や消防士をこれ以上減らすことはできないでしょう。

そうなると、削減の余地があるのは「事務職員」の人件費になってきますね。
しかしながら、「社会保障費」などの方がもっと構造的に地方財政を圧迫しているなか、わずか3%の人件費の削減に力を入れるのは、非常にコスパが低いです。
地方財政の歳出構成を見ると、人件費を削るのが得策ではないことは、誰が見ても明らかでしょう。
理由④対象者の選定がとても難しい
そもそも公務員の大量リストラなんて起こりえない
このように僕は考えていますが、仮にリストラの必要性に迫られたときのことを考えてみましょう。

リストラ対象者の選定、つまり、分限免職を行うにあたっては、成績が悪い職員をピックアップする必要がありますね。
業務成績による職員のランク付けを行わないといけないのですが、これが非常に難しいのです。
なぜなら、民間企業の売上・利益のような客観的な選定基準がないからです。
つまり、公務員の場合、
- 数値化できる業績評価指標(売上・営業利益)がない
- 業務プロセスそのものも評価対象にできない(仕事のスピード・質が他部署の担当や上司に大きく左右されるため)
のです。
結果として、
仕事中に居眠りしている
仕事中に堂々とスマホゲームをしている
など、極端な事例しか分限免職できなくなってしまうのですね。
旧社会保険庁が潰れたときも、大半の職員は後継組織である日本年金機構に再雇用されています。
あれほどの大組織がなくなったにもかかわらず、実際に分限免職されたのは、わずか500人ほどでした。
公務員の場合、リストラ対象者を公平に選定することはほぼ不可能なのです。
結局、分限処分でも、配置転換などによってだましだまし対応するしかないのですね。
理由⑤「事業整理」という概念がない
大量リストラを行うための1つの方法として、「不採算部門(事業)の整理」というのがあります。

この点、行政組織には不採算事業というものが存在しないため、この方法がとれません。
そもそも「採算性」という概念がないため、「不採算事業」というものを特定することができないのです。
このことによって、リストラ対象者の選定はより困難になります。
もちろん、中長期的なスパンで捉えると、不必要な事業はなくなっていく、つまり、スクラップ・アンド・ビルドになります。
しかし、短期的にみると、予算枠がパンパンになるまで細分化した事業が拡大する、つまりビルド・アンド・ビルドになるのです。
事業の入れ替わるスピードは、民間企業などに比べると、非常に緩やかなのです。
まとめ
今回は、「公務員の大量リストラ」が起こりえない理由について解説しました。
この記事のまとめ
次の5つの理由から、将来的な公務員の大量リストラが起こりえないと考えられる。
- 慢性的な人手不足
- 「倒産」することがない
- リストラによる地方財政の回復は見込めない
- リストラ対象者の選定が難しい
- 「事業整理」という概念がない